酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』

孔子とその弟子・顔回を描いた一大傑作大河小説『陋巷に在り』(全13巻、新潮社)に続く酒見賢一の最新作『泣き虫弱虫諸葛孔明』(文藝春秋ISBN:416323490X)。待望の単行本発売である。26日付けの発売だったが店頭で偶然発見。『陋巷に在り』の最終巻13巻から約2年、別冊文藝純春秋での連載も追っかけてなかったのですっかり忘れてた(^^;。簡単な内容はこちらを参照のこと。
http://www.bunshun.co.jp/book_db/html/3/23/49/416323490X.shtml
とにかく新解釈にも程があるというか、軍略の天才であると共に劉備及び蜀漢にその全てを捧げた類まれなる忠義の人としてこれまで描かれてきた孔明像を完全に覆している。
一言に『三国志』と言っても正史から演義からいろいろあるが、そこに発生している様々な矛盾にツッコミを入れ、孔明にスポットを当ててそれを解消すべく物語を練っていったらこんなもんが出来ちゃった、ってな具合。作者酒見氏によるツッコミも適宜入ったりと、半ばヤケになったかのごときクダけた文体はおよそ歴史小説とは思えないほど。面白いのはもちろんのこと、あまりの読みやすさにサクサク進めた。
タイトルの「泣き虫弱虫」にどういう意図があるのか分からんが、少なくともこの単行本(に収められたのは第1部らしい)には孔明が泣き虫だったり弱虫だったりする描写は見当たらない。じゃあどう描かれてるかというと、傍から見たら自信過剰の奇人変人、頭が良いのは分かるが言動がとかく気味悪く、絶対関わりたくない訳の分からんヤツ。終始こんな感じ。頭の固い三国志/孔明信者を敵に回すこと必至である。孔明だけでなく周りの人間も凄まじい。中でも奇行の絶えない兄と共に生活することで過剰なまでに気が小さくなってしまい、常におどおどしている不憫な弟・諸葛均。彼の不幸っぷりもこの話の大きな魅力(笑)。
この第1部はいわゆる三顧の礼まで。この後劉備の軍師として迎え入れられることになる孔明がどれほど奇っ怪な謀略を見せてくれるか、想像することすらコワイ(^^;。