『KENSO/うつろいゆくもの』

新dsに小森啓資を迎えて、スタジオ盤としては4年ぶり。とはいえ正直あまり期待してなかったのだが、やはりメンバーチェンジが清水先生はじめ各メンバーの想像力を刺激したんだろうなと思わせる充実作。『夢の丘』〜『ライヴ92』で極まったハイテクフュージョン化の反動でそれ以降比較的ハード/ヘヴィ化していたが、多少『スパルタ』『夢の丘』を思わせる曲調が増えてきたという印象を受けた。M-2など何となくジェネシストニー・バンクスっぽくもあるんだけど、「あー、このメロディ、この展開、この音色(シンセリードとかね)、これこそKENSO!」って感じのフレーズの出現頻度が以前より上がった感がある。これを別にリグレスしたというつもりはなく、今のKENSO/先生の素直な姿がこれってことなんでしょう。全体的にはより展開が複雑な曲が多くてなかなか覚えられそうにない(笑)。一番複雑なのは小森氏作曲のM-7か。KENSOには珍しくザクザクとしたヘヴィなギターリフがあったりして、確かゲームサントラの"技巧派組"もこんな曲だったのでこういうのがこの人の曲の個性なんだろうな。実は今回一番手応えがあったのはまるでボーナストラックのようにラストに入っている「コドン」3部作。川島(フラメンコカンテ)+小森のインプロ3パターンに小口、光田、清水の3人がそれぞれオーバーダブをしたという、通常のプロセスとは違った作られ方をした(ユーロ・ロック・プレスでの清水氏解説より)ためにこんな扱いなのかもしれないが、前作より川島女史がバンドにかなりハマッているのではないだろうか。ある意味パット・メセニーの『シークレット・ストーリー』の1曲目みたいなもんで、フリーで歌われたvoに絶妙なハーモナイズを付加しているんだが、デモテープでガチガチに構築された曲とは違う微妙な緊張感がある。KENSOの新機軸と言えよう。新機軸といえば前作で「Tjandi Bentar」という"ガムランプログレ"を提唱した小口氏の曲は今回M-9の1曲のみでちょっと残念。相変わらずリズムの仕掛けや多彩なシンセ/オルガンがカッコいい。「コドン」3部作の中でも小口氏参加のM-15が一番好き。早くEsのアルバム出してくれ。バリ島の影響は代わりに清水氏がM-6で打ち出している。ピッチがめっちゃ不安定なフィドルといった音色のルバブ(バリ島の弦楽器だそうで)が印象的。
珍しくネット各所でスゴイ!と言われてるが(笑)、私にとっては手放しで大絶賛という程ではない。KENSOには他のプログレバンドとは一線を画す存在であって欲しいので、なんぼ出来が良くても「あーKENSOっぽいなー」という感想しか出ないとしたら私としては不満なのである。もちろんKENSO「らしさ」が無くなったらダメだけど、良い意味での期待を裏切られて「こう来たか!」と降参させられて初めて絶賛できると思うんだよね。この辺りの微妙なファン心理、プログレファンなら特に屈折したものがあると思うが(笑)。しかしもちろんめちゃめちゃレベルが高いところでの話だし、大いに高評価もするし、愛聴盤にもなると思う。むしろ聴き込んでだんだん細部の良さが分かってくるところが多いかも。ドラムマガジン誌11月号に小森氏のインタビューが載るらしいので、そこでいろんな仕掛けとかが判明すればまた違うだろうし。あと次のアルバムが何年後になるか分からんが(^^;、前回以上に次にどう来るのかが早くも楽しみ、そういう気持ちにさせてくれた作品ではある。

うつろいゆくもの

うつろいゆくもの